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【自作を語る 第8弾 前沢明枝さん 】

 10月10日 児童文学ぞろ目の日!
【自作を語る &ミニインタヴュー 第8弾
前沢明枝さん(翻訳家)】

  

『「エルマーのぼうけん」をかいた女性 ルース・S・ガネット』...
前沢 明枝 著( 福音館書店) 

 

  ルース・S・ガネットは、子どものころ、大人たちにお話を聞いてもらうのがうれしくて、時間があるとお話を書いて遊んでいました。大人になってスキー場にアルバイトに行ったとき、雨ばかり降って来場者もなく、暇をもてあました彼女は、ここでもお話を書いて過ごしました。「あるつめたい雨の日に……」。こうして始まったお話は、のちに『エルマーのぼうけん』になりました。
  5年前、あるきっかけで、ガネットさんからこのエピソードを聞いたとき、わたしはたいへんな秘密を知ったような気持ちになりました。子どもの時にあれほどワクワクして読んだお話が、そんな何気ない日常の中で生まれたということがわたしには衝撃でした。そして一人でも多くのエルマー・ファンに、このことを明かしたいと思いました。その後、ガネットさんの生い立ちやエルマー執筆の背景を書いた本が、世界中どこにも出ていないことを知り、きちんとインタビューをして記録に残そうと思いたちました。
 そうしてできたのが、『「エルマーのぼうけん」をかいた女性 ルース・S・ガネット』です。ガネットさんの子どものころの話をていねいに追うと、エルマーのお話に出てくるような出来事がいたるところに顔をだします。
インタビューのとちゅう、ガネットさんは、「エルマーのお話は、わたしのなかの子どもが書いたの」と何度も口にしましたが、この本を書き終えて、その意味がよくわかりました。執筆中は、ガネットさんの言葉の意味を探りながら、いろいろなことを考えました。学校や教育のありかた、親と子の関係、家族の意味……。毎日の暮らしを謳歌していたように見える少女ルースの生き様に、これほどいろいろなことを教えられるとは、予想だにしていませんでした。
  92歳の今も、子どもの心と好奇心を持ち続けるガネットさん。彼女がやさしい言葉で語ってくれたエルマーや少女時代のお話を、子ども、大人を問わず、たくさんの方に楽しんでいただけたら幸いです。(前沢明枝)

 

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(ここからは、ミニインタヴューです!)

 

(1)“『エルマー』は、わたしのなかの子どもが書いた”というルースの言葉について、どのようにお感じになりましたか。

 

  最初にこの言葉を聞いたのは、東京で初めて会ったとき。何となくわかるけど、少し詳しく聞きたい、でも時間がない……。これも、インタビューしたいと思ったきっかけの一つです。この意味を一言で表そうとすると、大切なことがたくさん抜け落ちてしまいそう。本を読んで感じ取ってもらえたらうれしいです。

 


(2)『エルマー』後、2冊しか上梓されていないのは意外でした。ルースは「作家になろうとは思っていなかった」とのことですが、この点について、実際にお話を聞いてどうお感じになりましたか。そして、ルースの人生の目標は、どのようなところにあったとお感じになったでしょうか。

 

 ルースは、自分の夢はほとんど叶ったといいました。彼女の人生を読み解いていくと、この言葉に込められた彼女の気持ちがわかる気がします。でも、わたしが感じたことをお伝えする前に、皆さんに自由に楽しく読んでいただけたらと思っています。
伝記は事実とはいえ、年表やデータの羅列と違って「物語」なので、読む人によって感じ取ることはさまざまです。ある作家さんはこの本を読んで、絵本作家になりたいという人にも読んでほしいと感想をくださいました。また、久しぶりに元気の出るおもしろい本だったと、お友達に配るために何冊も購入してくださったロングセラー作家さんもいます。読み方が人それぞれ違うように、ルースの目標をどうとらえるかもひとつではないはずで、自由に考えたことをあとで皆で分かち合えたら、きっとおもしろいでしょう。エルマー好きの人たちと集まって、いつかそういう機会をもつのが、今のわたしのささやかな夢です。

 

 

(3)前沢さんご自身が「(数度の引っ越しでも)手放せなかった」と書かれている『エルマー』ですが、前沢さんにとって、どのような魅力がある本なのでしょうか。

 

 魅力は盛りだくさんで紙面がどれだけあっても足りないくらい。なのでひとつだけ紹介するとしたら、エルマーが大人の力を借りずに、なんでも考え決めて行動するところ。子どものときはこれが気持ちよくてわくわくしました。彼が問題を一つクリアするたびに、私までいっしょに「できる子」になった気がしてどんどん自信をつけて。(笑)
 物語の魅力とは別に、この本が宝物になった理由がもうひとつあります。それは、最後のページに、母が、いつ、だれと、どこに出かけたときに買ってもらったのか、書きとめていたこと。大人になって母の書きこみを目にしてから、この本は幼いころの自分と家族の記憶を閉じ込めた、かけがえのない宝物になりました。電子メディアとは違い、一冊に物語がひとつだけ収められている本。物語世界をまるごと自分の手で抱きしめられるという、本ならではの幸せな魅力をつくづく思います。 (前沢明枝)

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