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『おじさんのかさ』

 ひなたあおい さん(幼稚園教諭)からの
7月7日、児童文学ぞろ目の日!

『おじさんのかさ』
作・絵 佐野洋子(講談社)

 

世間の興奮ほどには、佐野洋子さんを好いてはいなかった。しかし、この絵本を読んで、ああ皆はこういうことに既に気付いていて、熱狂しているのか、と思った。

傘が気に入り過ぎて、雨の日も傘を抱えて歩くおじさん。傘はピカピカ、おじさんはずぶ濡れ。そんなおじさんも、ある時ついに、傘を開いてしまいます!

まず単純に傘が濡れないよう必死になって、ずぶ濡れになるおじさんという構図が面白い。これが少年やお母さんではダメなのだ。おじさん、しかも絵を見るに、ハットを被ったちょっと賢げなおじさんだということもポイントだ。大人になればなるほど、大切なこと、ど真ん中にあるものを見落としがちなのだということが、ユーモアと共によくよく伝わってくる。
そしてつい傘を開いてしまうシーン。読んでいてつい、「あっ…」と声を挙げてしまいそうになる。どうしても濡らしたくなかった傘に新たな価値を見出した瞬間である。全てがキレイに整理整頓されていたら、辿り着けない場所もあるのだなぁと修行僧のようなことを考えてしまう。すり減り、使い込まれるからこその美しさがあるものなのだ。

分かりやすいストーリー、特に表情がなくてもおもいっきり感情が伝わってくる力強い絵…短い絵本の数ページに込められた密度の濃い人間観。世間はこの佐野洋子さんを評価していたのか!
私はこれを「あー面白かった!」と読めてこそ粋だと思う。裏にあるものを深読みしてしまうようじゃまだまだ。人は小難しいことを議論するとそれだけで何だか高尚になった錯覚に陥るが、それはあくまで錯覚に過ぎない。本物の高尚さはこの作品をまるごと受け入れられる器の大きさ。…手に入れたいものである。
(ひなたあおい)

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