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『森のおくから  むかし、カナダであった ほんとうのはなし』

ひなた あおいさん(元・幼稚園教諭)からの、
9月9日、児童文学ぞろ目の日!

『森のおくから 

むかし、カナダであった ほんとうのはなし』
作:レベッカ・ボンド 訳:もりうち すみこ

(ゴブリン書房 )

 

 「課題図書」という、良いのか悪いのか分からない肩書をつけて(“課題図書”と言われた途端にその本が面白くなくなるという学生あるある、感じていた方も多いのでは?)平積みにされていた一冊。本屋の夏らしい光景である。絵の感じも、「ほんとうのはなし」とはじめから謳っているところも、第一印象ではあまり好感が持てなかったのだが、確かにこれは「課題図書」という権限を借りてでも残すべき作品だと感じたので、ここで紹介しようと思う。

 内容は森で暮らす少年が山火事に遭うというもの。前半は森でホテルを営む主人公の家族と、それを取り巻く人々の温かなやりとりがほっこり描かれる。ある日森から煙が上がり、炎はあっという間に燃え広がった。火の手はどんどん迫ってきて、ついに逃げ場は森の中にある湖のみに…。
 全ての人たちは湖に浸かり、火の手が収まるのを待っていた。すると普段は森の奥でひっそりと暮らす、ありとあらゆる動物たちまでもが湖にやってきて同じように浸かりだしたではないか…!!シカやアライグマや野ウサギ…野生の動物と人間がほんの数cmの距離で同じ時間を共有する不思議。火が収まると静かにそれぞれが、それぞれの場所へと帰っていった。

 動物と人間が一緒くたになって、同じ湖に浸かり、ひと時とはいえ、同じ時間を共有したということが、果たして今を生きる子どもたちに「不思議」と感じられる感性があるのだろうか。読後、私が一番初めに感じたことだ。AIや4Dなどバーチャルの世界がよりリアリティを持つ現代において、動物と同じ時を過ごすというファンタジーが私たちには「馴染み」すぎている。ファンタジーをファンタジーと感じるようにするために、実体験を踏む必要がある、今はもはや、そういう逆説的な時代になってきたのかもしれない。

 電気コンロは普及しているし、ガスの火でも、つけっぱなしにしていたら自動で止まる。昨今の様々な自然災害を見ていると、こうした技術の発展はなくてはならないものではあるが、一方で実感を伴わない危険性もあるように感じる。お正月の寒い朝に、神社のお焚き上げに遭遇すると、その火の熱量に毎度のこと驚く。少しの炎と見えても、暖をとるには十分に熱いし、パチパチと絶え間なく音がしていて心地よい。じゃあこれが森全体を包む大火事だったら?そこに人間や動物が住んでいたら?

 火事の想定をしろだとか、動物愛護とか、そういうことではない。ただただ、自然と人間の関係性を改めて考えるきっかけになれば良いと思う。火も、湖も、森も、そこに生きる生き物も。私たちは依存しても憎みあってもいけない。それぞれがそれぞれの場所で、互いを尊重しあいながら、生きていく、それが現実であり、正しい“命”の姿なのではないだろうか。
(ひなた あおい)

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