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『浦島太郎』復刻版

ちょこりんさん(公共図書館司書)からの、

2月2日 児童文学ぞろ目の日!

『浦島太郎』復刻版
中谷宇吉郎/文  藤代清二/影絵 
(暮らしの手帖社 2003年)

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「むかしむかしあるところに、浦島太郎さんという人がいたんだって。知ってるでしょう、浦島太郎というのは、お魚をとる漁師なんだね。漁師って、おうちは海の近くにあるでしょう。だから浦島さんのおうちも、海の近くにあったのね。」

こんな面白い語り口調の『浦島太郎』の作者は、児童文学者ではなく雪の結晶の研究で有名な物理学者、中谷宇吉郎(1900―1962)。
1951年に最初に出版されて、この絵本は2003年の復刻版です。

中谷宇吉郎は、自分の子どもたちを寝かしつける時に毎晩寝床の中でお話をしてあげていたそうで、この『浦島太郎』もそのひとつです。

この絵本では、浦島太郎には両親はいなくて、一人暮らしをしていることになっています。

 そして、助けた亀に連れられて竜宮城で乙姫様たちに歓迎されて、毎日ご馳走を食べて、遊んで楽しく暮らしていく浦島太郎ですがー、

「ところがね、どんなおいしい御馳走でも、毎日たべていると、だんだんあきて来るのね。」

 「親切にしてもらうと、かえって浦島さんは、昔の一人ぼっちのおうちの方がなつかしくなるんだって。妙なようだけれど、やっぱりそういうもんなのね。」

思わず笑ってしまう箇所です。
 「人間って、そういうもの」なんですね。たしかに。

 まだ絵本もあまり無かった時代、北海道の雪の夜、子どもたちに自分の言葉で昔話を寝床の中で語っていたと思うと、ひとりの父親としての中谷宇吉郎のあたたかみも伝わってきます。

 そして藤代清治の影絵は、表紙はカラーですが本文は全部モノクロ。
ヨーロッパの宮殿広間のような竜宮城、ワイングラスのようなお酒のカップ、考える人のような浦島太郎と、この絵本は中谷宇吉郎の文章に加えて影絵もユニークです。

雪の結晶の研究によって高い空の気象状況を解明し、それを「雪は天からの手紙」という優しい言葉にした中谷宇吉郎。
エッセイ集である『雪は天からの手紙』(岩波少年文庫 2002年)をあわせ読むと、戦前戦後の北海道の厳しい自然、予算が乏しい研究環境、わが子への慈しみの感情、そうした中から生まれた絵本であることがわかってきます。

 読者がこの絵本を読んで「途中であくびが出たら、それでこの一文の目的は果たせた」そうですよ。

(ちょこりん)

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