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『くまとやまねこ』

ちょこりん さん(公共図書館司書)からの、

4月4日、児童文学ぞろ目の日!

『くまとやまねこ』
著 湯本 香樹実   絵  酒井 駒子

(河出書房新社)

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色とりどりの美しい花が咲き、小鳥が喜びの歌を歌う春。
新しい生命を生み出す美しい春は、すべての人に訪れる。

4月が人生の節目となる日本では、進級・進学・就職・異動は「夢と希望に胸ふくらませる」はずの季節。
しかし冬が終わり、景色が移り変わるのと同時に、すべての人の心の中に美しい春がやってくるとは限らない。
深い哀しみ、重たい気持ちを抱えたまま、時の流れの中で生きている人も多くて当然だ。

絵本『くまとやまねこ』の表紙は、くまとやまねこではなく、くまとことり。
そして最初の頁に書かれた文章は、
「ある朝、くまはないていました。なかよしのことりがしんでしまったのです。」
悲しみからスタートする物語。
最愛の存在を失った時、人の心は新たな始まりの地点、新たな季節に立たざるをえない。

後半から登場するやまねこは、くまにとってどのような存在なのか。
くまは悲しみの季節から心の再生への季節へと、どのように心が移り変わっていったのか。

この絵本の頁をめくって秀逸さを感じるのは、文章表現、ストーリー展開だけでなく、絵のみの頁、文章のみの頁、絵も文章もない白紙のページがあること。
背表紙と、見返し(表と裏表紙に続く頁)が、きれいなピンク色をしていること。
このピンクと同じ色は、本文中のところどころ、リボンや花の色にも使われている。
それ以外の絵は、すべてモノクロ。
この絵本は、そうでなければならない。
人の心の繊細さを、文章、絵、装丁のすべてで表現するために。
そうであるからこそ「いのちの死」という重たいテーマが絵本という表現様式を通して総合芸術として昇華することを可能にしたのだ。

「バラン、バラララン……」
やまねこの古いタンバリンをくまが初めて叩いた音。
やまねこが弾くバイオリンとともに、次の季節、心の再生の季節へ誘う音色が聴こえてくる絵本でもある。

河出書房新社HP
http://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309270074/

(ちょこりん)

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